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動脈血栓塞栓症について
動脈血栓塞栓症とは肥大型心筋症の猫に好発する疾患です。
肥大型心筋症になると心臓内の血液の流れが悪くなり血栓が作られることがあります。
その血栓が心臓から出てきて、血管に詰まってしまうことを動脈血栓塞栓症といいます。
猫では様々な部位で血栓が詰まりますが、腹大動脈で詰まることが一番多いと報告されています。
腹大動脈で血栓が詰まると下半身への血流が遮断されてしまうので、下半身が動かなくなり、とても冷たくなります。
また、下半身が動かなくなるだけではなく、血流がなくなった組織から体にとって有害な活性酸素、カリウムなどが産生されたり、心不全を併発したりと命を脅かす合併症を引き起こします。
動脈血栓塞栓症に対してバルーンカテーテル血栓摘出術を行った症例
今回ご紹介する症例は、動脈血栓塞栓症を引き起こし、緊急的にバルーンカテーテルにて血栓を摘出し、後肢の運動性が回復した猫の一例です。
症例は猫、1歳、去勢雄、動脈血栓塞栓症を発症したとのことで他院より紹介来院されました。
来院時体温は34.8℃とかなりの低体温状態でした。
ちなみに猫の動脈血栓塞栓症では体温が37.2℃を下回ると生存退院率が50%を下回ると報告されています。
また心不全も合併しており肺水腫を発症していました。
写真は血栓摘出前と摘出後の術野です。
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血栓が摘出されると一気に血流は改善されます。
手術後麻酔からはすみやかに覚醒し、一命を取り留めることができました。
両後肢の麻痺は日を追うごとにだんだんと改善され、数日後には歩行が可能となりました。
動脈血栓塞栓症に対して血栓摘出を行うタイムリミットは発症してから6〜8時間以内と言われているため、病院来院時には既に手遅れとなっている場合が多いです。
そのため、動脈血栓塞栓症を引き起こす肥大型心筋症をなるべく早期に発見し、自分の飼い猫が動脈血栓塞栓症を発症した場合にどのような対処をするか、心の準備をしておかなければなりません。
肥大型心筋症は心臓超音波検査をしないと見つからないことも多いため、定期的な健康診断を受けましょう。
執筆担当:
獣医師 陶山雄一郎